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『日本におけるファイリングシステムの現況とあるべき姿

1.はじめに

1-1. 新庁舎の建設・建替ラッシュは続く

中央政府主導で推進された市町村の明治・昭和の合併に続き、1999年(平成11年)に制定された合併特例法に基づき、平成の合併が始まった。1999年4月に3,229あった市町村は、2006年(平成18年)度末に1,821迄減少し1)、2019年(令和元年)10月末現在では1,724の市町村が存在している2)。条件が有利な合併特例債による財政支援が与えられた結果、該債発行の条件「2005年(平成17年)3月末までの申請、翌年3月末までの合併成立」に合わせて、駆け込み合併が相次いだ1)。
東洋経済新報社は、地方自治体の庁舎建て替え状況に関して、2013年(平成25年)2〜4月に独自の調査を実施している3)。概要は以下の通りであった。
a) 調査対象 ・・・ 全国812都市(789市と東京23区)の市役所(東京23区は区役所)
b) 調査項目 ・・・ 建替え計画の有無
c) 回答先 ・・・ 803市区
d) 回答結果 ・・・ 完成済み(46)、工事進行中(33)、計画有(133)、計画無(591)
d)の前3者、計212都市に建て替え理由を聞いたところ、81都市が「合併等に伴う移転・集約」を挙げた。市役所機能が合併前の旧自治体の庁舎に分散されていては非効率というのは勿論だが、財政事情が厳しい中、合併特例債が庁舎建設を後押ししていることが記されている。なお、当初、起債が可能なのは合併年度とそれに続く10年度とされたが、2011年3月の東日本大震災の発生を受け、新・合併特例法の法改正により期限は2度にわたり延長され、現在は、被災市町村は合併年度とそれに続く20年度、被災市町村以外は合併年度とそれに続く15年度が期限となっている4)。

ところで、先の東洋経済新報社の調査結果では、212都市の内、168都市が「老朽化」を、163都市が「耐震強度不足など防災上の理由」を建て替え理由として回答している3)。ここでは別の資料から「老朽化」「耐震化」について纏める。
総務省は、本庁舎(防災対策本部を設置する庁舎を含む)が未耐震の市区町村の状況調査(調査時点=2017年(平成29年)12月31日)の結果を、2018年(平成30年)4月23日に開催された「公共施設等総合管理計画の更なる推進に向けた説明会」で発表している5)。それによれば、全1,741市区町村のうち、28.4%に相当する494団体が本庁舎が未耐震であること、94団体が平成29年度までに耐震化(耐震改修・建替え等)に係る工事を開始している一方で、148団体は対応状況が「未定」のままであることが示された。
昭和の大合併という事象もあったが、より本質的には、1954年(昭和29年)12月から1973年(昭和48年)11月までの約19年間、所謂「高度経済成長」期に、庁舎を始め公共施設の新設が爆発的に進められた。先の総務省調査資料には、494団体の庁舎の建築年が掲載されていることから、高度成長期真っ只中の1959年(昭和34年)〜1969年(昭和44年)を中心に、建築年代を4区分して494団体の実態を纏めてみた。

建築年代

1958年以前
(昭和33年以前)

1959〜1969年
(昭和34〜44年)

1970〜1973年
(昭和45〜48年)

1974年以降
(昭和49年以降)

団体数

69(14%)

217(44%)

108(22%)

100(20%)

 本表が示しているように、6割もの庁舎が、耐震化の問題だけでなく、築50年以上という老朽化の問題も併せ持っている(且つ後4年も経てばそれが8割に達する)ことがわかる。被災時、司令塔の役目を担うべき庁舎の整備・建替えは喫緊の課題と言えよう。

1-2. 庁舎新設・建替えと文書管理

建替えなどによる庁舎移転の際、保管・保存文書の整理について、検討を求められることが多い。本来書庫スペースで無い所を書庫として活用していた場合を含め、実質的に書庫スペースを減少せざるをえない場合は勿論、適切な文書管理を進めていくためには、一般的に職員の意識改革が不可欠であり、その意味で、庁舎移転というイベントは絶好の機会となりうるからであろう。
「文書に始まり文書に終わる」と言われる6)ように、その殆どが文書等を通じて行われている自治体の事務処理に鑑みる時、しかるべき管理基準の下、文書量を削減する手立てを施さないと、保存文書量は増加する一方である7)。しかるに、情報公開法や公文書管理法等の施行に伴い、文書管理は「記録管理」へと進化してきており、廃棄に当たり慎重さが今まで以上に求められてきてもいる。文書管理の改善も喫緊の課題となっているのである。

1-3. 過去の文書管理改善成功例

文書管理の改善方法を調べるためにネットを用いて検索すると、ヒットしてくるものの殆どは、H先生若しくは師の関係者か師が関わられた自治体の方が書かれた論文である。なので、古くは自治大阪2005の「羅針盤」紙上に、8〜10月号に亘って連載執筆された論文
 第一回「世界に冠たる日本の公文書管理〜担当者がいなくても、10秒台で検索〜」
 第二回「このままでよいのか、文書管理〜改善しなければ、条例違反になる〜」
 第三回「即時検索できない分類は、分類ではない〜文書を速やかに取り出せる分類方式がある〜」
を始め、広文協通信第27号(2015年3月) p.1〜p.11などや、編著書「一目でわかる自治体の文書管理−行政文書管理ガイドラインの実践−」(第一法規、2018年)に見るように
  ○ 簿冊式だと即時検索できない
  ○ バーチカルファイリングを適切に行うことで即時検索可
という論調しか目に入らない状況となる。

確かに、H先生がご発表された当初は、簿冊式ファイリングに問題のあった場合も多かったと想像されるが、その後、本論考で後述するように、いわゆるへき地といわれるロケーションにある小規模町村であってさえ、庁内LAN、WEB回線、LGWAN回線に接続されたパソコンが、職員1名に1台以上配備され、また50代を含む職員個々のITスキルも10年前には考えられなかった水準に達している今日、ファイリングと検索性をめぐる背景は一変していると思料する。

1-4. 本論考の筋立て

以上の状況を踏まえ、本論考では、先ず最初に簿冊式とバーチカル式というファイリングツールの歴史を紐解きつつ、我が国における現状を、「今」という時代に即して再考する。
次いで、ファイリングシステム導入成功例の実態はどのようなものなのか、に関して考察する。
最後に、現在求められているのは、ファイリングツール(技法)ではなく、その上位概念であるファイリングシステムであることと、その定着化のためのポイントを提言したい。

なお、拙著HP文書管理通信に執筆中の編集室だよりNo.50『「バ」か「ヴァ」(バーチカルファイリングの今を考える)』( https://www.bunkan.jp/staff/5/staff50.html )が、グーグルサイトを用いて「バーチカル」×「簿冊」で語彙検索すると、少し前からNo.1サイトになっている。本論考に関する関係者の関心度の高いことが示唆され、本論考が何がしかでも皆様のお役に立つことができれば幸甚である。

1) 曽我謙悟「日本の地方政府」中央公論新社(2019)

2) e-stat(政府統計の総合窓口)での検索結果による
   https://www.e-stat.go.jp/municipalities/number-of-municipalities

3) 加藤千明「震災、市町村合併で庁舎の建て替えを決断」東洋経済オンライン
   2013/07/04 6:00  https://toyokeizai.net/articles/-/14568

4) 井出一仁「合併特例債実態調査(1)――事業の現況と今後の見通し」日経BP総研
   2016/10/19  https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/100500003/

5) 総務省「公共施設等総合管理計画の更なる推進のための留意点について」
   (平成30年2月27日付け総務省自治財政局財務調査課・地方債課・調整課事務連絡)
   添付資料(別紙4)  http://www.soumu.go.jp/main_content/000547690.pdf

6) 広島県自治総合研修センター「文書の基本〜文書に始まり文書に終わる〜
    (平成29年度初任研修(前期))」(2017年)

7) IRCデータプロテクニカ「市町村に於ける保存文書総量圧縮対策と永年保存制度改革、
   歴史公文書等諸問題の整理」
   2017/12/15  https://www.bunkan.jp/images/ronbun/201712.pdf


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