米国におけるファイリング教育は、既に小学校段階から始まっていると良く言われる。文書管理通信として調査した範囲では、高校( Highschool )、中学( Middle School )においてファイリング実務を学ぶ教程を持つ学校があることは確認できたが、実際に全米で低年齢層に対してどれだけのファイリング教育が実施されているかについては資料を持たない。
とは言うものの、上記(3)の CRM の資格制度を見る通り、資格を持ちファイリング技術を身につけた者が、専門職として多くの組織に採用され優遇されている社会であり、また専門職に就かなくとも、ファイリングの技術を最低限身につけていなければ組織の一員として働くことができない社会でもあることから、広範囲にファイリング教育が行なわれているものと考えて良いと思われる。
本節の冒頭で触れたように、ファイリングシステムは元来細かなルールの積み重ねで構成されるシステムであり、このシステムの下で働く人々にとって、このルールを常に遵守することは「窮屈」であり「不自由」であると感じせしめるものであることは間違いないところであろう。
またこのような窮屈さや不自由さは日本人にとっても米国人にとっても等しく感じるところのものである筈のものであるが、現実には米国に於いてファイリングシステムが汎く普及しているのは、この窮屈さと不自由さが克服されているからであると考えられる。
その克服は本項(1)〜(4)の各要素が総合的に作用した結果であるかと思われる。
すなわち、窮屈であっても、不自由であってもこれを克服しない限り、社会においてあるいは組織においてコミュニケーションをとることができず、また社会、組織そのものも成立することが能わないという切実さが底流にあり、このことを前提として国家全体の取り組みとして早い時代から法的な整備が進められ、資格制度等の制度的基盤をも整え、また低年齢層へのファイリング教育を積極的に施すことによって、窮屈さや不自由さを克服しているのである。
ファイリングシステムの使用者たる組織構成員においては、学校教育の中で技術を学び、窮屈さ、不自由さが当たり前であるとの意識を持つに到っているのであろう。
また更に重要な点は、以上のような国家、国民としての文書管理、ファイリングシステムに関するコンセンサスに立って、民間、官公庁を問わず、組織の中に有資格者たる専門員を必要数雇用し、専任の文書管理担当者としてファイリングの指導と実務に当たらせていることであろう。
組織構成員全体がファイリングの必要度を強く認識し、かつ一定の実務技能を有しているその上に、専任の文書管理担当者を置いて管理に当たらせているということなのである。
実に、米国におけるファイリングシステムは、このような教育コストや人的コストを国や自治体、会社組織が負担することによって初めて成立しているものであることを忘れてはならない。 |