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トップ 最新号 >特集2−2−1.米国におけるファイリングシステムを成立させている背景と法制度
2−2−1.米国におけるファイリングシステムを成立させている背景と法制度
(1) 米国は人種の坩堝であり転職社会
 

ご存知のとおり、米国は多様な民族・人種・文化が混在する坩堝のような社会である。違った文化背景を持つ、異なる民族、人種の個人が集まり、1つの社会組織を形成しているのである。

また米国においては、労働流動性が極めて高い転職社会であるとも言われる。

(2) 米国におけるファイリングシステム定着の必然性
 

以上のような多種多様の人たちが組織として一つの仕事を進めるためには、またいつ誰が転職しても組織事務全体に支障をきたさないようにするためには、業務手順の統一ルールとマニュアルは必須のものとなる。

近代以降の企業や官公庁(組織)における文書は、その組織の活動そのものを表現し、また記録するものである。組織を構成する全ての社員、職員は、常時文書を取り扱うことが必須であって、極論を言えば文書の取り扱いそのものがその者の組織活動であり、その総和が会社や官公庁の活動であると言い換えても良いほどであろう。

文書を扱うことがその組織の活動そのものであるなら、少なくとも米国社会においては、文書の取り扱いの統一ルールやマニュアルが無ければ、企業活動や官公庁における活動そのものが成り立たないのであり、この統一ルールやマニュアルこそがファイリングシステムそのものである。

(3) 米国の文書管理、ファイリングシステムを支える制度
 

これまでに見たような社会的背景のもとに、1943年に連邦記録処分法 (Records Disposal Act) が、1950年には連邦記録法 (Federal Records Act) が制定されている。

これらの法律により、行政機関において文書の作成から廃棄までの文書のライフサイクルを適正に管理することが義務づけられている。

1966年には、情報自由法( Freedom of Information Act )が制定され、連邦機関の所有する行政記録は一部の例外を除き、公開が義務づけられた。その後、欧州など各国において同様の法律が制定されている。(世界で最初に情報公開法を制定したのは、 1766 年のスウェーデン)

文書管理に関わる資格制度として、CRM( Certified Records Managers )とよばれる公認記録管理士としての資格試験が実施されており、これを取得することで文書管理分野における専門職として認められ、給与面においても高く評価される。

日本における同種の資格は NOMA (日本経営協会)によるファイリングデザイナー検定であるが、この検定制度が生まれたのもつい最近であり、またその資格の社会的認知度の面でもCRMとは比較にならない状態である。

(4) 米国におけるファイリング教育
 

米国におけるファイリング教育は、既に小学校段階から始まっていると良く言われる。文書管理通信として調査した範囲では、高校( Highschool )、中学( Middle School )においてファイリング実務を学ぶ教程を持つ学校があることは確認できたが、実際に全米で低年齢層に対してどれだけのファイリング教育が実施されているかについては資料を持たない。

とは言うものの、上記(3)の CRM の資格制度を見る通り、資格を持ちファイリング技術を身につけた者が、専門職として多くの組織に採用され優遇されている社会であり、また専門職に就かなくとも、ファイリングの技術を最低限身につけていなければ組織の一員として働くことができない社会でもあることから、広範囲にファイリング教育が行なわれているものと考えて良いと思われる。

本節の冒頭で触れたように、ファイリングシステムは元来細かなルールの積み重ねで構成されるシステムであり、このシステムの下で働く人々にとって、このルールを常に遵守することは「窮屈」であり「不自由」であると感じせしめるものであることは間違いないところであろう。

またこのような窮屈さや不自由さは日本人にとっても米国人にとっても等しく感じるところのものである筈のものであるが、現実には米国に於いてファイリングシステムが汎く普及しているのは、この窮屈さと不自由さが克服されているからであると考えられる。

その克服は本項(1)〜(4)の各要素が総合的に作用した結果であるかと思われる。

すなわち、窮屈であっても、不自由であってもこれを克服しない限り、社会においてあるいは組織においてコミュニケーションをとることができず、また社会、組織そのものも成立することが能わないという切実さが底流にあり、このことを前提として国家全体の取り組みとして早い時代から法的な整備が進められ、資格制度等の制度的基盤をも整え、また低年齢層へのファイリング教育を積極的に施すことによって、窮屈さや不自由さを克服しているのである。

ファイリングシステムの使用者たる組織構成員においては、学校教育の中で技術を学び、窮屈さ、不自由さが当たり前であるとの意識を持つに到っているのであろう。

また更に重要な点は、以上のような国家、国民としての文書管理、ファイリングシステムに関するコンセンサスに立って、民間、官公庁を問わず、組織の中に有資格者たる専門員を必要数雇用し、専任の文書管理担当者としてファイリングの指導と実務に当たらせていることであろう。

組織構成員全体がファイリングの必要度を強く認識し、かつ一定の実務技能を有しているその上に、専任の文書管理担当者を置いて管理に当たらせているということなのである。

実に、米国におけるファイリングシステムは、このような教育コストや人的コストを国や自治体、会社組織が負担することによって初めて成立しているものであることを忘れてはならない。

   
 
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