既に述べた日本と米国のファイリングを支える社会環境の相違が、日本におけるファイリングシステムの定着を阻んだ最大の要因であったと結論付けてよいと考えられるが、もう一点、この時点で採用された「文書分類方式」が「割付方式」(ファイル形態はバーチカルファイル方式)であったことも、定着をより困難なものにさせる原因であった可能性が考えられる。
「割付方式」では、予め組織内の全ての部課係をまたいだ文書分類表を作成する。
第1ガイド、第2ガイド、個別フォルダーといったように上から下へ分類を決めていく方式である。日々発生する文書は、各課でこの分類に合わせて個別フォルダーに収納し、キャビネットに保管され管理されることとなる。
この方式では、決められた分類の変更は原則として認められないため、1フォルダー内の文書量がフォルダーに格納できる量を超えてしまうケースや、逆に文書数枚しか入っていないフォルダーが発生するケースなどが生じ、その意味で物理的変化に対応しにくい方式であると言える。
この方式の検索面においては、全庁、全組織に共通の分類であるため、部、課、係間の相違は無く、たとえ職員の異動があっても支障なく使える利点は有るのであるが、このことは反面で、部、課、係ごとに固有で認知し易い任意のガイドやフォルダー名を付けられない事にもつながる。結果として抽象的なガイド名、フォルダー名のどこに必要な文書があるかの判断に窮することがまま生ずる欠点をも持っている。
図書館で必要な本を探す際に、本の表題は判っているのだが、図書分類の上層の分類、例えば総記、自然科学、政治、文化、宗教などの分類のどこに有るのかが判らないといった経験をすることが良くあるが、割付方式でも同じようなことが生じがちなのである。
以上見たような割付け方式の難点から、ファイリングシステムの有用性が減じ、結果としてシステムの崩壊に到ったという事例もあったのではなかろうか。もしこの時期に導入されたシステムの分類方式が「割付方式」ではない、より現実に即したものであれば、あるいはもう少しファイリングシステムの定着率も高い結果となったかもしれない。
文書分類法式には割付け方式とは別に積上げ方式がある。これは予め規定した文書分類は用いず、日々発生する文書の内容やその文書量に合わせて分類を下から上へと積上げてゆく方式である。
抽象的になりがちな割付方式の分類に較べて、実際の利用者にとってより現実的、感覚的に理解し易い方式であり、また各々の発生量に応じてファイル分類を行うという意味でも文書量の管理がしやすい仕組みをもっている。これは「割付方式」の欠点を補う形で、その後(註 1 )に日本で考案された分類方式である。
前出の「ファイリング&情報共有なるほどガイド」によれば、昭和39年に改訂出版された三沢仁氏の「ファイリングシステム三訂」で積上げ方式が提唱(二訂までは「割付方式」)され、その後の日本におけるファイリングシステムの分類方式の主流となった・・とある。
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